全く、あいつらは何であんなに煩いのだろう。
漸く眠った双子からそっと離れて、ダイニングへと向かう。

「あら、ディムロス。まだ起きてたの?」
「あの二人の所為で眠れなかったんだ……。」
「それは悪かったわねー。」

リベラルがあははと苦笑する。

「躾がなっていないぞ。」
「はいはい。」

頬を膨らませて抗議すると、リベラルは立ち上がって私に椅子を勧めた。

「何か暖かいもの淹れてあげるから待ってなさい。」
「分かった。」

リベラルがキッチンへと向かうのを視界の端で捉えながら、私は椅子の上によじ登った。
カウンターの向こう側で何やら温めているリベラルを眺めながら、足をぶらつかせて私は彼女を待った。

「お待たせ、ディムロス。ミルクでよかったかしら?」
「…………子ども扱いをするな。」

リベラルが淹れてきたのはホットミルクだった。
もう私は七歳になるというのに、何だか馬鹿にされている気分だ。

「ゴメンねディムロス。牛乳そろそろ使い切りたかったのよー。」

見ると、彼女のマグカップに入っているのもホットミルクだった。
何だか言い訳のようで疑わしいが、まあいいだろう。
ホットミルクにひとくち口をつけて、リベラルに話しかける。

「リベラルこそ何時まで起きているつもりだ?」

時間はもうとっくに十二時を越えていた。
リベラルは困ったように笑うと、ホットミルクをひとくち飲んで呟いた。

「あの人が帰ってくるの待ってるだけよ。」

足をぶらつかせる。
気に食わない。

「……何であんなのがいいんだか。」
「あら、ディムロスったら妬いてるの?」
「妬いてない。」

リベラルがくすくす笑う。
誰が妬いてなどいるものか。

「……ただ、全部捨ててまで、何であいつの所に行ったのか不思議なだけだ。」

リベラルは元々は貴族の出身だ。
何故、名誉や今までの生活や、そういったものを全て捨ててまで、何も持たない、しがない一軍人の妻になろうと思ったのだろう。
それが不思議でならない。

「地位や権力を全て捨ててでも、行きたい場所っていうのがあるものよ。」

柔らかく微笑んでリベラルが呟く。

「…………さっぱり分からない。」

行きたい場所とは何だろう。
この家の事だろうか。
リベラルは元々住んでいた大きな家や、その他の全てを捨ててまでこんな小さな家に来たかったのだろうか。

「きっと貴方にもいつか分かるわ。」
「何でそう思うんだ?」

リベラルは人差し指を唇にあてると、悪戯っぽくニコリと笑って言った。

「女の勘、よ。」

何だそれは。

「無茶苦茶だ。論理的じゃないぞ。」
「そうかしら?」
「ああ、全然論理的じゃ……。」

言葉を言い終わる前に、欠伸が零れた。
パジャマの袖で溢れた涙をごしごしと擦って椅子から降りる。

「…………寝る。」
「おやすみなさい、ディムロス。」

寝室に戻ったら、きっとあの二人が私の場所まで寝相で埋め尽くして、シーツをぐちゃぐちゃにしているに違いない。
ああ、困ったものだ。

「おやすみ。」

そんな事を考えながら、リベラルに向かって小さくそう呟くと私は寝室へと向かった。





「全てを捨ててでも行きたい場所、か……。」

地位も、権力も、責任も。
この両肩にかかる全てを捨ててでも行きたい場所。

「アトワイト……。」

攫われた彼女の元へと今すぐ駆けつけたい。
例えこれが、敵のしかけた罠だと分かっていても。

「リベラルの言った通りだな……。」

遠い昔に思いを馳せながら、私は一人執務室でアトワイトの元へと向かおうとする気持ちを必死で堪えるのだった。















十円玉氏のところのベルセリオス夫妻……じゃない、ベルセリオス母^▽^






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