小さな包みにそっと手紙を添えて、君に送ろう。





無色のハッピーバースデー





メイドそれぞれに与えられた小さな個室。

「ふぅ……。」

一日の仕事を全て終えてエプロンドレスを外すと、ベッドに腰掛ける。
ああ、今日も大変だった。
ぼんやりと室内を眺めた所で、ふと奇妙なものに気がついた。
戸棚の上にそっと控えめに置かれている、朝には無かった何か。

「あら……?」

白い包みと、一枚の便箋。

「これは……。」

開くとそこには、躾けられた丁寧な文字で記された一文。



Dearest Mariane.



見覚えのある、筆跡。
それを見て、今日は自分の誕生日であった事を思い出す。

「エミリオ様……。」

慌ててエプロンドレスを付け直すと、包みを取って部屋を飛び出した。
階段を上る。

コンコンコン。

ノックを三回。
部屋の中から甲高い、しかし落ち着いた子供の声が聞こえる。

「誰だ。」
「マリアンです。」
「……ちょっと待って。」

暫くの間の後、扉を開けて隙間から顔を覗かせたのは、黒髪の幼い少年だった。

「マリアン、どうしたの?」

掌の中の小さな包みを見せて、尋ねる。

「これは、エミリオ様でしょう……?」

少年は驚いたように紫の瞳を見開いた。
そして、困ったような顔で逡巡した後、小さな唇を動かして呟いた。

「何で、僕だと……?」
「だって、エミリオ様の字でしたもの。ほら、この手紙……って、あっ!」

どうやら手紙を部屋に置き忘れてきたらしい。
慌ててポケットも探ってみるが、やはり見当たらなかった。

「駄目だよ、マリアン。手紙はちゃんと焼かなきゃ。」

くすくすと少年が呆れたように笑う。
その言葉に、手紙に名前が記されていなかった事の真意を知った。

「あ、いえ、その……はい……。」

情報のない手紙。
焼かなくても済むように。

「金色のバレッタ、きっと君の髪によく似合うよ。マリアン。」

まだ封を開けていない包み。

「エミリオ様……。」
「おやすみ、マリアン。」

扉が閉められる。
廊下に一人残された私は、丁寧にそっと包みを開いた。

金色のバレッタ。

中から現れたそれに、涙が零れそうになる。
自らの黒い髪に通して留めてみた。

逸る気持ちで部屋へと戻り、そっと鏡を覗き込んだ。
少年の見立て通り、自らの黒の髪にそれはよく映えた。

「綺麗……。」

丁寧な手付きでそれを外し、じっと眺める。
美しく、細やかな細工。

「エミリオ様……。」

ぽろりと零れる涙が金のバレッタに落ちて鈍く光った。

「大切に……大切にします……。」

少年の優しさに胸の奥からもう一つ、小さな涙が零れるのだった。











リオンとマリアンの、気持ち悪くない話……という事で書いたけど……
ごめん……これリオンじゃなくて、エミリオ……orz

十円玉氏、お誕生日おめでとう!^▽^






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