「という訳で、今回のクエストはオレが一緒に行くから。よろしくなっ。」
…………。
……どうして、こうなったんだ。
「どうした、もしかして気分悪い?」
「……あ、いや。」
無言で佇む僕に、心配そうな声をかける金髪の男。
同じ船に乗り合わせるようになってから、なるべくなら顔を合わせないようにしていたというのに。
ちっくしょう、何でこんな事になったんだ。
気まずいなんてものじゃあない。
「さっ、行くよ!」
ああ、それもこれも全てはあの女の所為だ。
くそっ、全く……何がディセンダーだ。
僕は諸悪の根源となった女をキッと睨む。
しかし、奴は全く気付かずに、モンスターとエンカウントするのを楽しむかのようにダンジョンを道なりに進んでいく。
頼むからそんな雑な進み方はやめてくれ。
僕の心臓が持たない。
「さあ、行こうかジューダス。」
にこり笑って、金髪の背中がこちらを振り返る。
「…………。」
僕はそれには答えないまま金髪の背中を追い抜いて、あの女の所為で早速エンカウントしたモンスターを切り伏せる。
敵は全部で四体。
あいつが一体。
スタンが一体。
残りは僕が切り伏せればいい。
一、二と相手に切りかかり、足場の悪い地形を利用して相手を追い込む。
そしてバランスを崩して地面に崩れ落ちた敵に止めを刺す。
「月閃光!」
これで、まずは一体。
息を吐く暇も無く振り返る。
「うわっ!」
スタンが二体のモンスターに囲まれている。
ザッと、僕の全身から血の気が引くのが分かった。
「……っ、スタン!」
慌てて駆け寄って、剣圧でまず一体吹き飛ばす。
そして、そいつがダウンしている隙にもう一体の方を切り捨てた。
「大丈夫か。」
ディセンダーがダウンした敵の方に回り込んでいるのを確認して、スタンに声をかける。
スタンは、暫くぽかんと間抜けな顔をして口を開けていたが、やがてへらへらと笑って大きく頷いた。
「ああ、別に大丈夫。かすり傷だよ。」
「……そ、そうか。」
「ありがとな。」
そう笑いながら言うと、スタンはぽんぽんと仮面越しに僕の頭を撫でた。
ええい、子供扱いするんじゃない。
そう言って振り払ってやりたいが、もしそれをして「リオンみたいだ。」とでも言われようものなら僕の立場がなくなってしまう。
「やったー、勝ったぁー!」
「うるさいぞ。全く、お前は……わざわざ敵にエンカウントしなくともいいだろう。」
少し離れた所で勝利の雄叫びを上げたディセンダーを叱咤する。
本当に止めて欲しいものだ。
僕の心臓が持たない。
スタンが敵と戦う度に、死にはしないかと不安になる。
「いや、でも良かったよ。」
「何が良かったんだ。」
へらへらとまるで危機感の無い顔で笑うスタンに、思わず眉間に皺が寄った。
「だって、オレ嫌われてるのかと思ってたからさ。」
「…………は。」
一体、何の話がどうしてそうなった。
訳が分からない。
「何かずっと避けられてる気がしててさ、オレひょっとしてジューダスに嫌われてるのかと思ってたんだ。」
「べ、別に避けてなんかない……。」
「へへっ、だよなあー。」
僕はあからさまにお前を避けていたぞ。
……どうしてそうすぐに人の言葉を信じるんだ、こいつは。
「何してんの二人ともー! 次、いくよー!」
「……だ、そうだ。行くぞスタン。」
ディセンダーは全く反省せずに、モンスターに正面から体当たりしそうな勢いで僕らを呼んだ。
しかし、まあ今回ばかりはスタンとの会話を断ち切ってくれた事に感謝する。
「なあなあ、ジューダス。」
「……なんだ。」
先を歩く僕の後を小走りでついてきて、スタンが声をかける。
できる限りそっけなく返事をしたというのにスタンは嬉しそうににこにこと笑っている。
ああ、いつまで経っても調子の狂う男だ。
「ジューダスの仮面ってかっこいいよな。ちょっと貸してくれないか?」
思わず足を滑らせる。
足首がぐにゃっと曲がった。
……何とか転ばずに済んだが、少し捻ってしまったようだ。
「オレ、一度それ被ってみたかったんだよ。」
「断る。」
スタンの要望を一言で切り捨ててディセンダーの後を追った。
「えーっ、何で?」
「うるさい、何ででもだ!」
全く、どこであろうとスタンはスタンだ。
やれやれと溜め息を吐きながら、僕は早くクエストを終えたいと心の底から思った。
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